権田保之助ん家

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おもちゃ絵について

[はじめに]
 2017年11月7日、権田保之助の次男速雄氏からおもちゃ絵という名前を初めて聞き、翌日、酒井好古堂を訪ねました。その後、おもちゃ絵の展示会に行ったり、図録を購入して見たりしましたが、未だにおもちゃ絵に関して分からないことだらけです(汗)。そんな私ですが、自分なりに感じたこと、考えたことなどを交えながら、おもちゃ絵について調べてきたことを書いてみたいと思います。

1.おもちゃ絵(玩具絵)について
 子供のおもちゃとして描かれた浮世絵版画。江戸時代には手遊び絵と呼んでいた。「おもちゃ」という用語は明治時代に生まれたもので、切り抜いてのりで貼ったり組み立てたりする子供の工作用である。おもちゃ絵の発生がいつ頃かはわからない。遊び終えれば捨てられてしまう性質のものだけに古いものはほとんど残っていないので不明な点が多い。寛文年間(1661~73)頃、子供のための絵本(赤本)が既にあったのでおもちゃ絵の存在も疑えない。享保6年(1721)の出版取り締まりで厳しい禁令が出されたが、子供のための商品はそのかぎりではないとあり、その存在の傍証資料となる。「武江年表」の寛政年間記事に「燈籠絵(とうろうえ)」について寛政期に鍬形蕙斎・葛飾北斎、文化年間(1804~18)に至って歌川国長・豊久の活躍を記している。3枚~5枚組の複雑な組上絵は大人の手を借りなくては組み立てられないほど難しい。このように子供のおもちゃになる「おもちゃ絵」は文化年間に燈籠絵が流行し、天保年間(1830~44)には需要もあいまってさまざまなものが工夫され、多種多様の作品が生まれた。時代が下るに従って、明治6年(1873)官制の小学教育が始まり教育が国民の関心事となって頭に「教育・・・」と題し学校で教材として用いられた。明治期に浮世絵が衰退するに従いおもちゃ絵は学校教材から、少年少女雑誌の付録へ、おもちゃそのものへと変貌し、そのアイデアは受け継がれ現代に生き続けている。
(出典:浮世絵大辞典 国際浮世絵学会編、東京堂出版。執筆者 稲垣進一氏)

「おもちゃ絵 江戸庶民のエスプリとデザイン」(飯沢匡、広瀬辰五郎、徳間書店刊)によると、おもちゃ絵という言葉が用いられたのは大正7年(1918年)2月の白木屋のおもちゃ絵展の頃で、それ以前は、絵草紙、または一枚摺りの名で通用していたようです。
「落穂ひろい 日本の子どもの文化をめぐる人びと」(瀬田貞二福音館書店)に「絵草子屋に吊るされた一枚物にはこうした鑑賞向きの品(錦絵)とは別に、千代紙、手遊絵、その他の切抜絵・・・」という記載があります。また、小野忠重氏は「民衆版画考」で手遊び絵を「カルタ、すごろく、たこ絵、千代紙、ちりめん絵、組立て絵、きせかえ人形、影絵、紙芝居、かわり絵、判じ絵、はめ絵、鞘絵、上下絵」としているようですが、おもちゃ絵の版元「いせ辰」の四代目 広瀬辰五郎氏は「おもちゃ絵類考からは千代紙を省きたいし、手遊び絵の字句もごく狭義に用いたい」としていて、おもちゃ絵の範囲も定かではない様子です。

 

「浮世絵・酒井好古堂HP 浮世絵学」掲載データを加工して作成したグラフ
http://www.ukiyo-e.co.jp/40565/2022/05/


「おもちや絵」は、女子供の遊びとして毎日のように使われて、いつの間にか消耗されてしまった。そのため、夏の売り出しの団扇(うちわ)絵と同様、殆ど残っていない。
(浮世絵・酒井好古堂HPより)


浮世絵・酒井好古堂HP 浮世絵学掲載のデータを見ると、現存する江戸時代(1603~1868年)のおもちゃ絵は少なく、現存するおもちゃ絵の多くは明治時代(1868~1912年)のものであることが分かる。
切り抜いて組み立てて遊ぶ「組上げ絵」は明治後半のものが多く現存している。これは、組上げ絵が明治後半に沢山作られたというよりも、古い時代の組上げ絵は遊んで捨てられてしまって残っていないということかも知れない。
絵師が不明な「無款」と言われるおもちゃ絵の発行数が、よし藤のおもちゃ絵の発行数が減少してもなお増え続けていることも興味深い。「無款」のおもちゃ絵は、有名な絵師が以前に描いたものを再利用して発行されたものではないかと考えるからである。

本物の布の「あねさま」は高価で、商家やお公家さんしか手にできなかったため、江戸時代に庶民向けに開発されたのがおもちゃ絵。おもちゃ絵は安い紙の文化で、庶民の子供のために作られたもの。子供が遊んで捨てられてしまうのでほとんどが残っていない。(浮世絵・酒井好古堂主人談)

 

おもちゃ絵であねさまを作って遊んでいる様子

おもちゃ絵で作ったあねさま

(上の2枚の写真は、稲垣進一氏の自宅にて撮影したもの)

 

 おもちゃ絵に関する資料を調べていて、おもちゃ絵の販売価格の推移が見えてきた。
 

以下の資料を元にグラフを作成した。
・明治中頃(1890年頃)の相場、1枚1銭5厘。大正4年(1915年)、1枚20銭(「落穂ひろい」)
大正4年(1915年)6月15日当時、しるこ代が一杯2銭か3銭として、10回貯めると20銭でおもちゃ絵が1枚買えた。大正6年(1917年)2月12日、入札ならびに開札した錦絵売立てが東両国の東京美術倶楽部で札元温古堂、丁字堂などで催されたなかに、広重の金沢夜景三枚続きが105円とある。それが、同一の浮世絵師でも、おもちゃ絵となると20銭(推定)である。(「おもちゃ絵 江戸庶民のエスプリとデザイン」)
・近頃(大正6年9月頃)ある懇意な錦絵屋さんで一寸値段を聞いて見ましたところが、余り値が違うので「算盤の桁が違うのじゃありませんか」と申しますと、「いいえ、決して。これでも貴君だから奮発して置いたのです」と云われて少々呆れました。
(権田保之助「錦絵」(大正6年9月刊))
*浮世絵研究誌「浮世絵」が大正4年に創刊されたことで、浮世絵やおもちゃ絵の認知度が高まり、大正6年頃からおもちゃ絵の値段が上がってきたものと推察する。
・明治後期は露店で多数のおもちゃ絵が1枚数十銭で売られていたようですが、大正6年頃になると浮世絵や錦絵が流行して研究や収集する人も多くなりつつあり、おもちゃ絵も一桁値段が上がったようです。(錦絵第5号、第6号、権田保之助)
・昭和30年代(1955~1964年頃)は、おもちゃ絵は「ゲテな子どもだましの、くだらない」錦絵として注目する人が多くなく、44枚の江戸時代のおもちゃ絵や80余枚の抜き芝居絵など束ねたものが1枚当たり10円程度の単価で売られていた。1972年、1枚1000円を超える。(「落穂ひろい」)
 ・現在、1枚数万円。

 

2.いろいろなおもちゃ絵

絵文字 国芳 1843-1847

 

擬人画 国芳 1843-1847

 

寄せ絵 国芳 1847-1852

 

陰絵 広重 1840-1842

 

上下絵 芳虎 1861

 

上下絵(上下逆さ) 芳虎 1861

 

物尽くしの絵 芳虎 安政4年(1857)←江戸時代は草木の色素を使っている

 

物尽くしの絵 国晴 明治10年(1877)←明治時代は化学染料、顔料を使っている

 

両面絵 泉寿 1818-1830

 

着せ替え 明治27年

 

判じ絵 江戸名所はんじもの 重宣(二代広重)1858

 

千代紙

 

組上絵 豊久 1847-1852

 

双六 よし藤
二重の円の外側の円に「おに」のつくもの、内側の円に「ふく」のつくものを描いている双六。江戸の町の庶民文化を垣間見ることができる。

 

3.おもちゃ絵の分類例
(1)「江戸明治 おもちゃ絵」(上野晴朗 歴史・民俗研究家、前川久太郎 理学・医学博士、1976年)
 ・組上げ、着せ替え、両面合せ、折り替わり、切抜お客遊び、影絵・あやつり人形、
替り絵、子供風俗、祭り・年中行事、手遊び、判じ絵・謎づくし、擬人画、
語りもの・語呂合せ、子供ばなし、図鑑がわり、単語づくし、凧・面・羽子板、
武者絵、戦争絵、芝居絵、すごろく・かるた、千代紙、新聞

(2)「江戸の遊び絵」(国際浮世絵学会常任理事 稲垣進一、1988年)
 ・平面の遊び(絵文字、寄せ絵、上下絵、五頭十体図、一頭多体画、一人三面画、擬人画)
 ・立体の遊び(蛸絵、畳み変わり絵、仕掛絵、両面絵、組上絵、造り物、身振絵、影絵、鳥目絵)
 ・線の遊び(文字絵、釘絵、大津絵、一筆画、ひも絵)
 ・言葉の遊び(金の成る木、判じ絵、地口絵)

(3)「遊べる浮世絵 体験版・江戸文化入門」(国学院大学 藤澤紫、2008年)
 ・戯画、判じ絵、影絵、おもちゃ絵(子持ち絵、絵双六、鞘絵)、文字絵、嵌め絵、
地口遊び、見立絵・やつし絵

(4)「おもちゃ絵づくし」(法政大学名誉教授 アン・へリング、2019年)
 ・「豆本」おもちゃ絵:豆本、詩歌・わらべ唄・はやり唄、「なぞなぞ」おもちゃ絵:判じ絵・いろは絵、「図鑑」おもちゃ絵:もの尽くし絵、「動物がいっぱい」のおもちゃ絵:擬人絵、「ためになる」おもちゃ絵:絵解き・教訓絵、単語図
 ・細工用のおもちゃ絵:千代紙、着せ替え人形・姉様人形、かつらつけ、香箱
 ・「名場面がジオラマで続々」おもちゃ絵の花形:組上灯篭・組上絵・立版古、回り灯篭
 ・「折って遊ぶ、切り抜いて使う」おもちゃ絵:折り替わり絵、折り形、節句用の絵
 ・双六・ボードゲームとしてのおもちゃ絵:絵双六、絵相撲、絵合わせ、福笑い
 ・その他のおもちゃ絵:凧絵、疱瘡絵、影絵・うつし絵

(5)「浮世絵・酒井好古堂」HP(日本最古の浮世絵専門店 酒井好古堂主人 酒井雁高)
[分類その1]
・一人で遊ぶもの:姉さま絵、着せ替え、武者絵、相撲絵、羽子板、凧(たこ)絵、
子供出し車、子供祭礼、子供大名行列、子供姫様行列、火消出初め、千代紙、両面絵、面絵(めんえ)、影絵、昔はなし(こま絵)、教訓絵、文字あそび、判じ絵
江戸しりとり、はやり唄、〇〇尽くし(図鑑)、組み上げ燈籠絵(芝居舞台、書き割り)
・二人以上で遊ぶもの:かるた(骨牌)、双六

[分類その2:おもちゃ絵が作られた主要な理由で分類]
1 高価な染織(絖ぬめ、絹)などに対して、子供でも楽しめるように、廉価な紙製品の浮世絵で摺り上げた。 姉様人形、武者人形、
2 掛軸、柱絵(はしらえ)、大巾絵(おおはば絵)。これらは一点作品の肉筆であった。これを紙製品で製作。 絵師は、春信、湖龍、英山、春扇など
3 舞台の組上げ燈籠(とうろう)、紙を切り抜いて、糊代に糊を貼り、組立て、舞台を再現。 これらも切り抜いてしまうので、原画は残らない。
4 子供の教育。つまり全体を知る。年中行事、五節句、尽くし(づくし)、雙六
5 子供一人だけでなく、二人以上で楽しめる双六、カルタなども、広い意味で、おもちゃ絵。

よし藤など子供の気持ちになった絵描きがいたから成り立った江戸時代の優れた文化である。おもちゃ絵の分類は確立していない。おもちゃ絵を誰でも分かりやすく5、6種類に分類できると良いのではないか。子供の気持ちになって分類することが大切
(浮世絵・酒井好古堂主人談)

(6)浮世絵研究誌「浮世絵」(娯楽研究者・ドイツ語学者 権田保之助、1915年)
おもちゃ絵とは「子供を享楽の主体とする版画である」と定義し、以下のように体系的に分類している。
〇「おもちゃ絵」の中堅
一.現相界を描いたもの
(イ)子供の世界を写し出したもの
   「当世子供遊び」なぞいう題での男の児、女の児の色々な遊び。
(ロ)大人の世界を写し出したもの
   「大名行列」「町火消」「祭礼」「台所道具」「お稽古」など。
(ハ)大人の世界を子供にて表したもの
   子供の火消しや大名や山車のお囃しなど。
(ニ)人間の実生活を動物にて表したもの
   「猫のお湯屋」「獣物商人尽し」など。
(ホ)新興の文明現象を写し出したもの
   「汽車」「鉄道馬車」「人力車」、近頃では「飛行機」「自動車」など。
(ヘ)「何々尽し」と云って同種類のものを列挙したもの
   「虫づくし」「獣物づくし」「名馬尽し」「樹木尽し」「面尽し」など。

二.仮相界を描いたもの
(イ)子供の理想界を表したもの
   「武者絵」「相撲絵」「あねさま絵」「役者絵」。
(ロ)童話を表したもの
   桃太郎、カチカチ山、猿蟹合戦など。
(ハ)芝居を表したもの
   役者を皆な子供にしたり、動物で表したりなど。
(ニ)全然絵師の空想を表したもの
   「ほうずき遊び」など。

〇第二次的の「おもちゃ絵」
(一)実用的意味が変じて「おもちゃ絵」となったもの
   疱瘡絵など。
(二)凧絵
   凧に模した絵。
(三)教訓絵
   子供に人倫五常を教えようという意味の絵。
(四)それを細工なぞして楽しむもの
   「千代紙」「切組絵」「切組み細工」「切組み燈籠」など。
(五)絵を応用した玩具
   「十六むさし」「目かつら」「福笑い」「双六」「かげ絵」「判じ絵」など。
(六)俚謡を絵に描いたもの
   「ちんわん節」など。
(七)辻占絵
   辻占(つじうらない)に出ている絵。

権田保之助は、おもちゃ絵の定義を「子供を享楽の主体とする版画である」とし、大正4年9月発行の浮世絵研究誌「浮世絵」第2号から玩具絵(おもちゃゑ)に関する論文を投稿しており、第4号において玩具絵を体系的に分類している
玩具絵に関する論文は、権田保之助以外に「浮世絵」第5号と第14号に松村翠山が、第19号に若尾悍馬が手遊絵(おもちゃゑ)として投稿し、若尾悍馬は第19号において手遊絵を分類して例示している。権田保之助はおもちゃ絵を初めて体系的に分類した人物だと考える
当時はまだ、おもちゃ絵は使って捨てられる安価な子供の玩具だとして文化的価値が見出されず、販売価格も1枚20銭と安価であった。

権田保之助は、おもちゃ絵の絵柄からその時代の文化や風習などを知ることができることの他に、「教訓画」から其の時代の教育の方法及び趨勢を知り「凧絵」から其の時代の人々の心を動かした理想を知り得たり「子供のみの遊ぶ自目的のおもちゃ絵」から其の時代の生活の縮図を見ることができることなどに、文化的価値を見出したことが分かる。おもちゃ絵の表面的なものだけでなく、その奥に潜む文化を見ようとしたのだろう。

浮世絵研究誌「浮世絵」第3号(大正4年8月)の「文明問題としての玩具絵の研究(二)」に権田保之助が興味深いことを書いているので以下にて紹介する。
玩具絵はこれを如何に分類したらよいであろうか、思うにこの分類の立場はその研究の側面如何によって異なり得るものであろう。即ち或いはこれを教育的側面より見、或いはこれを芸術という側面から眺め、或いはこれを経済的側面より観察するによって、それぞれ異なった分類をなすことが出来ると思うのである。


[自分なりの試み・雑感]    
分類・整理されたおもちゃ絵を図版などで見ると、何も考えずにそのまま受け入れてしまうが、実物のおもちゃ絵を目の当たりにした時にどう考えるか体験することで、おもちゃ絵に関する理解が深まると考えた
そこで、浮世絵・酒井好古堂からおもちゃ絵と思われるもの110枚をお借りし、実物を見ながらいろいろと考えてみた。

 

酒井好古堂からお借りした110枚のおもちゃ絵(?)

〇多数のおもちゃ絵と思われるものを目の前にしてまず感じたことは以下のことだ。
 ・これは本当におもちゃ絵か(おもちゃ絵は子どもの遊ぶもの)
 ・子どもはこれを使ってどう遊ぶのか(遊び方)
 ・どんな種類があるのか(絵師、年代、特徴、遊び方など)
 ・最後は自分の思想と照らし合わせて考えるしかないだろう
 ・子ども向けの浮世絵とはいえ、絵柄が面白くて色が美しい
 ・和紙に刷られた実物の良さは、書籍(図版)の印刷された物からは伝わらない
〇まずは「遊び方」を切り口にして考えてみた。実物を見ながら考えると以下の6通りの分類が思い浮かんだ。
 1.真似て遊ぶ(手おどり、子どもあそび)、4枚
 2.見て学ぶ、楽しむ(尽くし、昔ばなし、判じ絵、かげ絵)、59枚
 3.切り抜いて遊ぶ(人形つくし、かんざしつくし、武者つくし、姉さまつくし、着せ替え)、12枚
 4.組み立てて遊ぶ(組み上げ)、8枚
 5.折って遊ぶ(千代紙、もようかみ)、23枚
 6.双六、3枚
 対象外、1枚
実物を目の前にすると、どう分類したら良いか、なかなか思いつかない。「子どもはこれをどう捉えるか」を考えることが大切なのだろう。
「これは本当におもちゃ絵か?」これに対する明快な回答を見出せなかった(苦笑)。
 これに対する回答は子どもに聞かないと分からないのかも知れない。
実際におもちゃ絵を手にすると、色の美しさ、人物や動植物のしなやかな線、彫り師の細やかさ、和紙の触り心地、経年による色の変化、裏面の凹凸から感じられる手摺り感、汚れ・破れから感じられる子どもの遊んだ面影、裏打ち・当て紙から伝わる大切に所有されていた様子など、いろんなことを味わうことができる。これは実際に見て触れた経験がないと分からないのだろう。ぜひ一度、実物を手に取ってご覧あれ。
おもちゃ絵に限らず、浮世絵(実物)の魅力を一般の人に知ってもらうには、実際に見て触れてもらうのが良いと思う。どこに行けば実物を見て触れられるかをYouTube動画などで情報発信することが役立つのではないかと考え、浮世絵・酒井好古堂主人と一緒に「浮世絵学 ミニ動画」を作ってYou Tube配信してみることにした。
ただし、You Tube動画を見ただけで「こんなものか」と満足してしまうのではダメで、You Tube動画をきっかけとして「実物を見たい。実際に触れてみたい」という気持ちになってもらうことが大切だ。これは浮世絵に限らず、演劇などのライブ文化を維持する上でも共通することだと思う。

●実物と図版を見ていて、ある発見をした。
 下の2枚のおもちゃ絵を見比べていただきたい。おもちゃ絵①とおもちゃ絵②は左右が反対となっているようだが、よく見ると異なる箇所もいくつかある。
おもちゃ絵①は明治12年に製作されたよし藤のおもちゃ絵で、おもちゃ絵②は製作年、絵師、版元が不明の無款のおもちゃ絵である(図版に掲載)。よし藤のこのおもちゃ絵が人気あったので、絵柄を裏返して再版したのだろうか。

①よし藤のおもちゃ絵(明治12年 1879)

 

②無款(絵師不明)のおもちゃ絵(①と左右がほぼ逆)


書籍「よし藤 子ども浮世絵」(中村光夫、富士出版)によると、
「よし藤の絵はその内容も形式も群を抜いていました。そしてその模倣作品が名も無き絵師たちによって作られていきました。無数のよし藤が生まれたのです。」
とのことで、以下の③~⑥のおもちゃ絵が紹介されている。
当時は著作権が厳しくない時代だったのだろう。

③よし藤のおもちゃ絵(慶応3年 1867)

 

④よし藤作品のコピー、無款(絵師不明)(明治12年 1879)

 

⑤よし藤のおもちゃ絵

 

⑥よし藤の作品の左右を入れ替えて 作られたと考えられる作品(絵師 国とし)


[おわりに]
実物のおもちゃ絵を手に取って、実際に見て触れてみると、おもちゃ絵の作品の魅力に引き込まれてしまいます。おもちゃ絵には、絵師・彫り師・摺師の作品に込めた想いが宿っているように感じます。作品に関する印象・捉え方は、人によって、また時代によって異なるものだと考えると、おもちゃ絵の分類の仕方は1つに決められるものではなく、複数存在して良いのではないかと思えてきました。
また、実物を見て触れることで本当の良さが分かるように思いました。ネットに情報が溢れていて、実物を見て触れる機会の少ない現代においては、実物の良さを知らずに「そんなものか」と評価してしまっていることも多いのだと思います。そして、これを解決する1つの手段として、You Tube動画などが役立つのではないかと考えました。
「浮世絵学 ミニ動画」、乞うご期待です!


[参考資料]
・書籍「浮世絵大辞典」(国際浮世絵学会編、東京堂出版。執筆者 稲垣進一ほか)
・浮世絵・酒井好古堂HP 浮世絵学
・書籍「落穂ひろい 日本の子どもの文化をめぐる人びと」(瀬田貞二福音館書店
・書籍「おもちゃ絵 江戸庶民のエスプリとデザイン」(飯沢匡、広瀬辰五郎、徳間書店
・雑誌「錦絵」(大正6年9月)
・浮世絵研究誌「浮世絵」全巻(酒井庄吉、浮世絵社、大正4年6月~9年9月)
・書籍「よし藤 子ども浮世絵」(中村光夫、富士出版)
・書籍「江戸の遊び絵」(稲垣進一、東京書籍)
・書籍「江戸明治 おもちゃ絵」(上野晴朗、前川久太郎、アドファイブ東京文庫)
・書籍「遊べる浮世絵 体験版・江戸文化入門」(藤澤紫、東京書籍)
・書籍「おもちゃ絵づくし」(アン・へリング、2019年)